【集客戦略】SEO・広告・SNSの役割分担|「待ち」と「攻め」の黄金比
【連載第6回|初心者向けデジタルマーケティング入門】
これまでの連載で、私たちはデジタルマーケティングの「地図(KGI/KPI)」を描き、「誰を乗せるか(顧客理解)」を定義しました。準備は整いました。第3回となる今回のテーマは、いよいよその顧客を自社のサイトやサービスへ連れてくる「集客(Attraction)」です。
「良いモノを作れば、自然とお客様は集まる」。残念ながら、現代のデジタル空間において、これは危険な幻想です。インターネットは広大な宇宙のようなもので、素晴らしいお店(サイト)を作っても、そこへ至る道を作り、看板を出さなければ、誰もたどり着けません。
しかし、ここで多くの担当者が壁にぶつかります。「SEO、Web広告、Instagram、X(旧Twitter)、YouTube…選択肢が多すぎて、何から手をつければいいのか分からない」という悩みです。すべてのチャネルに手を出してリソース不足に陥り、どれも中途半端になってしまうケースを私は数多く見てきました。
重要なのは「すべてやること」ではなく、自社の状況に合わせて「役割分担」を決めることです。今回は、主要な集客チャネルの特性を解剖し、皆さんのビジネスに最適な「集客ポートフォリオ」を組むための指針をお伝えします。
ウェブ解析士マスター、チーフSNSマネージャー
「キャリア公式サイト」「広告サイト」など、アライアンスを中心とした50以上の月額公式サイト、100万人以上が利用するサイト、100以上のコンテンツの立ち上げ、集客化に成功。1日の売り上げが1億以上のソーシャルゲーム、カジュアルゲームの制作に携わるなど、さまざまな業態・業種にデジタル・マーケティングを取り入れ、企業に追い風を起こし続けている。
目次
デジタル集客を整理する「トリプルメディア」の視点

個別のSNSや広告手法の話に入る前に、まずはマーケティングの全体像を整理するフレームワーク「トリプルメディア」を理解しましょう。これは、企業と消費者の接点となるメディアを3つの役割に分類する考え方です。
オウンドメディア|自社が所有するメディア
| 例 | Webサイト、ブログ、メールマガジン |
| 役割 | 情報を蓄積し、顧客を接客・教育する場所。 |
| イメージ | マイホーム。建てるのに時間はかかるが、自分たちの自由にでき、長期的な資産になる。 |
ペイドメディア|費用を払って掲載するメディア
| 例 | リスティング広告、ディスプレイ広告、SNS広告 |
| 役割 | 短期間で多くの人に認知させ、強制的に集客する場所。 |
| イメージ | 賃貸広告や看板。お金を払えば一等地に看板を出せるが、支払いを止めれば看板は撤去される。 |
アーンドメディア|信用や評判を獲得するメディア
| 例 | SNS(X、Instagram、Facebook)、口コミサイト、個人ブログでの言及 |
| 役割 | 共感を生み、拡散によって認知を広げる場所。 |
| イメージ | 公園や井戸端会議。企業のコントロールは効かないが、信頼性が高く、爆発的な拡散力を持つ。 |
現代のデジタルマーケティングでは、これら3つを単独で使うのではなく、「ペイドで認知させ、アーンドで共感を呼び、オウンドで刈り取る(成約する)」といった連携プレーが基本戦略となります。
3大チャネルの「得意・不得意」を解剖する

では、具体的な集客チャネルである「SEO」「Web広告」「SNS」について、それぞれの強みと弱みを見ていきましょう。これらを理解することが、適切な使い分けの第一歩です。
①SEO(検索エンジン最適化)/信頼を積み上げる「農耕型」
SEOは、Googleなどの検索結果で自社サイトを上位に表示させる施策です。
得意なこと
顕在層の獲得:「腰痛 治し方」「会計ソフト おすすめ」など、すでに悩みやニーズが明確なユーザー(顕在層)を集めるのに最適です。
資産化(ストック):一度上位表示されれば、広告費をかけずに継続的に集客し続けてくれます。中長期的には最もコストパフォーマンス(ROI)が高くなります。
不得意なこと
即効性がない:施策を行ってから効果が出るまでに、通常6ヶ月〜1年はかかります。
コントロール不能:Googleのアルゴリズム(順位付けのルール)が変わると、順位が急落するリスクがあります。
2025年の視点:生成AIによる検索(AI Overviewなど)の普及により、単にキーワードを含めるだけの記事は通用しなくなっています。AIが回答の出典元として選びたくなるような、一次情報や専門性(E-E-A-T)の高いコンテンツが不可欠です。
②Web広告/時間を金で買う「狩猟型」
Web広告とは、広告費を支払い、検索結果やSNSのタイムラインなどに強制的に表示させる施策です。
得意なこと
即効性とコントロール:審査が通ればその日から集客できます。ターゲット、予算、配信期間を管理画面で自由にコントロールできます。
検証スピード:複数のキャッチコピーや画像を同時に出し、どれが反応が良いかを短期間でテスト(A/Bテスト)できます。
不得意なこと
掛け捨て型:広告費を止めれば、その瞬間から流入はゼロになります。資産として残りません。
CPAの高騰:競合が増えると入札単価が上がり、獲得コスト(CPA)が高騰しやすい傾向があります。
③SNS/共感で繋がりを広げる「ファン作り型」
Instagram、X、TikTokなどを活用した運用です。
得意なこと
潜在層へのアプローチ:まだ悩みに気づいていない層に、偶然の「発見」を提供できます。「この商品いいな」という感情的な衝動を作れます。
ファン化と拡散:ユーザーとの双方向のコミュニケーションにより、親近感(エンゲージメント)を高められます。良いコンテンツは「シェア」され、広告費ゼロで拡散する可能性があります。
不得意なこと
売り込みは嫌われる:SNSは本来楽しむ場所です。宣伝ばかりのアカウントはフォローされません。
運用コスト:コンテンツ制作(画像・動画・テキスト)やコメント返信など、担当者の人的リソースがかなり必要になります。
戦略的「役割分担」:フェーズと予算で決める

それぞれの特性を理解したところで、実際のビジネス現場でどう組み合わせるか、2つのケーススタディで見てみましょう。
ケースA/事業立ち上げ初期(知名度ゼロ・予算少)
戦略:即効性を重視し、SEOの時間を買う
立ち上げ初期は、どんなに良い記事を書いてもSEOで上位表示されるまで時間がかかります。この時期にSEO一本槍でいくのは危険です。
メイン(攻め):Web広告
少額(月3〜5万円)でも良いのでリスティング広告を出し、「今すぐ客」を確実に拾います。これにより、初期の売上を作りながら、サイトの使い勝手(CVR)を検証します。
サブ(種まき):SNS
広告と並行して、SNSアカウントを開設し、認知を広げます。創業ストーリーや開発秘話など、共感を呼ぶコンテンツを発信します。
バックグラウンド(仕込み):SEO
即効性は期待せず、半年後のためにブログ記事を書き溜めます。
ケースB/成長期・安定期(利益率を高めたい)
戦略:広告依存度を下げ、資産型へシフトする
広告で集客できているものの、広告費がかさんで利益を圧迫しているフェーズです。
メイン(資産化):SEO(オウンドメディア)
これまで広告で反応が良かったキーワードを元に、高品質なSEO記事を作成します。広告で買っていたアクセスを、徐々に自然検索(無料)に置き換えていきます。
サブ(関係強化):SNS &メルマガ
一見客をリピーターにするため、SNSやメルマガで継続的に接点を持ちます。
調整弁:Web広告
指名検索(ブランド名での検索)や、特に売り出したいキャンペーン時のみに絞り、広告予算を最適化します。
BtoBとBtoCでの「勝ちパターン」の違い
BtoC(一般消費者向け)
感情や衝動が購買動機になりやすいため、「SNS(Instagram/TikTok)で認知→広告でリマインド→LPで購入」という流れが強力です。
BtoB(法人向け)
検討期間が長く、論理的な判断が求められます。「リスティング広告/Facebook広告で課題解決を訴求→お役立ち資料(ホワイトペーパー)をDL→メルマガで育成→商談」という、リード(見込み客)を獲得してから育てる流れが一般的です。
実例① メガネチェーン店のSNS主導型アプローチ(BtoC)
あるメガネブランドは、以前SNSが一方通行の商品情報ばかりでエンゲージメントが低かった課題を抱えていました。そこで、
メイン(攻め):SNS広告と有料プロモーションで短期的な認知拡大。
サブ(関係強化):Xでユーザーとのユーモアある返信やキャンペーンを実施し、双方向コミュニケーションを強化。
バックグラウンド(資産化):SEO対策で「おしゃれメガネ おすすめ」などの検索ニーズに対応したコンテンツを蓄積。
結果、フォロワー増加と実店舗への集客が連動し、ブランドのファン化に成功。SNSの拡散力を広告で加速し、SEOで長期安定流入を確保した好例です。
実例② 韓国コスメブランドのInstagram活用例(潜在層向けBtoC)
日本市場に新規参入したある韓国コスメブランドは、知名度がほとんどない状態からスタート。そこで、
メイン(攻め):Instagram広告とインフルエンサーコラボで潜在層に「発見」を提供。
サブ(ファン作り):日常使いのビジュアル投稿を積み重ね、感情的な共感を呼び拡散を促進。
調整弁:反応の良かったキーワードをSEO記事に活用し、自然検索からの流入を増やす。
若年層の衝動買いを促進し、短期間で認知が大きく広がりました。SNSの感情訴求を広告でブーストした典型パターンです。
まとめ:集めて終わりではない、そこはまだ「玄関」
抽象的なケースだけでなく、実際のブランドでもこのような組み合わせで成功しています。
今回は、SEO、広告、SNSという3つの集客チャネルの特性と、それらを組み合わせる戦略についてお話ししました。
「SEOは農耕、広告は狩猟」このイメージを持つだけでも、今の自社に必要な施策が見えてくるはずです。手持ちの資金(広告費)があるなら時間を買って狩りに出るのも正解ですし、じっくり土地(サイト)を耕して将来の豊作(自然検索流入)を目指すのも正解です。間違いなのは、それぞれの特性を知らずに「なんとなく」始めてしまうことです。
さて、苦労して戦略を練り、ターゲットとなるお客様を自社のWebサイトに連れてくることができました。しかし、ここで安心はできません。そこはまだ「玄関」にすぎないからです。
もし、たどり着いたページ(ランディングページ)が分かりにくかったり、魅力が伝わらなかったりしたらどうなるでしょうか?お客様は「戻る」ボタンを押して、3秒で帰ってしまいます。これでは、いくら集客にお金と時間をかけても、すべて無駄になってしまいます。穴の空いたバケツに水を注ぐようなものです。
次回、第4回は「LP/サイトの基本設計」です。集めたアクセスを無駄にせず、確実に成果(コンバージョン)に繋げるための、Webサイトとランディングページの設計図について解説します。
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編集者情報
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株式会社デジタル・ナレッジ サービス推進事業部 事業部長 野原 成幸 |
| わからないことはインターネットで検索していた時代から、AIに質問することでさらにスピーディーに解決できる時代になりました。多くの場合、解決して終わりだと思いますが、「これについてもっと知りたいな」「学んでみたいな」ということも少なからずあるのではないでしょうか。 Pre.STUDYでは、何かを学びたいと思って検索する人にとっての学びの予習(prestudy)になり、明日誰かに話したくなる情報を発信しています。それと同時に、なんとなく湧いた疑問を検索した先で、ふと芽生えた知的好奇心をくすぐり、学びのきっかけになるメディアを目指しています。 | |












